宝積寺駅を出た烏山線の列車は、しばらくすると架線のない田園へ入ります。車両の屋根からパンタグラフを下ろしても、エンジン音は始まりません。走っているのは、床下の大容量蓄電池にためた電気でモーターを回すEV-E301系、愛称ACCUMです。
宝積寺はJR宇都宮線と烏山線が分かれる駅です。同時に、電化区間を走る一般的な電車の使い方から、非電化区間を走る蓄電池電車の使い方へ切り替わる場所でもあります。
烏山線は宝積寺から烏山まで20.4km、8駅です。そのうち宝積寺・下野花岡・仁井田の3駅が高根沢町内にあります。路線全体のうち、幹線と接続する入口から田園の二駅までを一つの町が持つことが、この記事の出発点です。
高根沢町は、幹線と支線だけでなく、架線と蓄電池の境目を町内に持っています。 車両技術を眺める話で終えず、宝積寺・下野花岡・仁井田の三駅がつなぐ暮らしまで追います。
宝積寺駅で、一本の線路は二つの電気の使い方に分かれる
宇都宮線の架線走行から、烏山線の蓄電池走行へ移る境目を地図と車両から見ます。
ACCUMは宇都宮―宝積寺の電化区間で、通常の電車と同じようにパンタグラフを上げ、架線から電力を受けて走ります。その間、主回路用の蓄電池にも充電します。宝積寺から烏山線へ入るとパンタグラフを下げ、ためた電気だけで走ります。
国土交通省は、この仕組みを非電化区間の「実質電化」の事例として紹介します。線路沿い全体に架線と変電設備を新設しなくても、電化区間と充電設備を使って電車を入れられるためです。
宝積寺駅は乗客が路線を選ぶ分岐であると同時に、車両が電力の受け方を変える分岐です。 駅東口のちょっ蔵広場や市街地だけでなく、線路上の役割も町の中心性を支えます。
非電化区間を走るのに、ACCUMは「電車」である
ディーゼル車との違い、走行中の充電、回生、折返し駅の急速充電を整理します。
非電化路線では、ディーゼルエンジンを積む気動車が一般的でした。ACCUMはエンジンではなく蓄電池とモーターで動く電車です。ブレーキ時には回生電力を蓄電池へ戻し、折返し駅の専用設備では急速充電を行います。
JR東日本は2014年3月に烏山線で営業運転を始めました。電化区間では架線、非電化区間では蓄電池という二つの状態を一編成が行き来します。ディーゼル車と比べて排気ガスを出さず、振動・騒音を抑える特性も公式資料に示されています。
架線がないから「電車ではない」のではありません。電気をその場で受けるか、車内へためて運ぶかが違います。 技術の違いは、駅で聞こえる音や線路沿いの設備という日常の風景にも表れます。
下野花岡と仁井田は、車窓の途中ではない
町中央部の二駅を、田園集落、図書館、広場、工業地の生活拠点として捉えます。
高根沢町内の烏山線駅は、宝積寺駅、下野花岡駅、仁井田駅の三つです。基幹記事では下野花岡駅が抜けているため、ここではJRと町の公式資料に基づき訂正して扱います。宝積寺を出てすぐ町外へ出る路線ではありません。
町の都市計画は、仁井田駅を近接するふれあい広場・図書館と一体で地域生活と交流を支える拠点に位置づけます。下野花岡駅は既存の広場や駐車場を維持し、近くの大規模工場跡地と合わせて地域の生活・活力を支える場所として整理されます。
宝積寺のような利用者の多い結節と同じ基準で、二つの小駅を測るべきではありません。大切なのは集落から駅が消えないこと、待てる場所や駐輪・駐車の条件が残ることです。小駅の生活価値は、駅前店舗の数より、家からの最後の一本と帰宅便がかみ合うかで決まります。
下野花岡と仁井田は、宝積寺から烏山へ向かう途中駅ではなく、町中央部の田園と集落が鉄道へ触れる二つの生活口です。 同じ駅間でも、徒歩圏、駐輪・駐車、図書館や勤務先への向きが違います。
100年の路線に、2014年の技術が入った
開通運動、廃止反対、車両更新を、地域が路線を使い続けてきた時間としてつなぎます。
烏山線は1923年に全線開業し、2023年に100周年を迎えました。町広報によれば、開通前の宝積寺―烏山は徒歩や客馬車で、沿線の人々は長く鉄道開通を働きかけました。開業当時は「烏宝線」とも呼ばれたといいます。
後に廃止が検討された際には、近隣市町が期成同盟会をつくり反対運動を行いました。路線を残す地域の行動と、ACCUMという車両更新は同じではありません。ただ、使い続けてきた線路があったから、新しい動力方式の実用路線になりました。
ここで、100年という2023年の節目と、2014年の車両導入を逆にしてはいけません。ACCUMは路線を開いた理由ではなく、長く使われてきた線路へ後から入った技術です。町の履歴は、新しい車両の登場で書き替えられるのではなく、そこにまた一層加わりました。
最新技術は新線へだけ入るのではなく、100年使われた地域の線路へ組み込まれました。 車両の新しさが運行本数や利用者数の課題を自動的に解決するわけではない点も分けて考えます。
列車を眺める話から、毎日の帰路へ戻る
現行時刻、駅までの移動、IC条件、運休時の代替を生活者の確認項目へ戻します。
蓄電池の仕組みを知っても、暮らしの判断は現行時刻へ戻ります。宝積寺では宇都宮線へ乗り換える列車と宇都宮まで直通する列車を分け、下野花岡・仁井田では家から駅までの手段と帰りの便を確認します。ICカードの利用範囲・購入方法も変更があり得るため、利用日にJR公式情報を確かめます。
駅から離れた東部丘陵や集落では、道路・デマンド交通が日常の軸になります。列車が運休した日、家族が送迎できない日、夜に帰る日の代替があるかを確認して初めて、鉄道が生活線になります。